3.武庫川ダムについて
流域委員会の「ダムは選択しない」という提言を尊重せよ
篠山から西宮の河口まで約66キロに及ぶ武庫川ですが、その河川整備をめぐっては40年来、ダム計画を軸に揺れ動いてきました。
1950年〜60年代にかけて、武庫川渓谷(武田尾渓谷)に広大な貯水池を持つ生瀬ダム構想が発表され、1979年には生瀬ダム予備調査が着手されました。渓谷の環境破壊を心配する反対運動が広がり、その後「武庫川ダム」として、普段は貯水しない治水専用の「穴あきダム」へと変更がされています。
1993年にダム建設は事業採択されましたが、ますます環境まもれの世論、ムダな公共事業への批判が全国で広がり、2000年には事業実施を前提とする武庫川ダム環境影響評価に対して708通もの意見書が提出され、西宮市、宝塚市も厳しい意見書をあげています。先立つ97年には河川法が改正され、治水と利水の観点しかなかった河川管理に河川環境の整備と保全が目的に加えられ、河川計画において地域の意見を反映させることがもりこまれました。
こうした背景を受けて2000年9月県議会で知事は、「ゼロベースから見直し、治水対策に対する合意形成の新たな取り組みを行なうとともに、遊水池や雨水の貯留、浸透等の流域での対応も含めた総合的な治水対策の検討を進める」と表明しました。
そして、地域の意見の反映をどのように行なうか、「参画と協働」をどう具体化するかの枠組み作りから真剣な検討が行なわれ、1年間の準備期間を経て04年3月、武庫川流域委員会が発足しました。
流域委員会は県からの諮問を受け、2年半、全体会で49回、作業部会や市民との意見交換の場であるリバーミーティングを含めると220回の会合での延べ1000時間を越える論議をまとめた「武庫川の総合治水へむけて」という、本編だけで160ページに及ぶ提言書を8月30日、決定しました。翌31日に県知事へ提出しています。
委員会での視点は、これまでの治水対策が、川底を掘削して川の流下能力を高め、強固な堤防を築き、上流にダムを建設するなどして、洪水を川の中に閉じ込めることに重点を置いてきたのに対し、新しい時代の治水対策として80年代から当時の建設省が提唱しはじめた「総合治水」を武庫川流域でいかに展開するか、というところにあります。
総合治水とは、もちろん河道対策や洪水調節施設(ダム)も含めつつ、大雨が川に直接流れ込む量を抑制するため、森林の保水力増大、水田やため池への一時貯留、防災調整池の機能強化、学校校庭や公園への一時貯留、さらには各戸での雨水貯留や雨水浸透型施設の設置促進などの「流域対策」を重視。またどんなに大きな洪水規模を想定した計画でも川からあふれて被害が発生する危険性は存在するとの前提に立ち、洪水があふれても最小限の被害ですむよう建築や土地利用に配慮し、危機管理を行なうというものです。実践するには平時から河川と向き合い暮らし方やまちづくりを変え、河川管理者だけでなく流域自治体や住民一人一人の参加・協力が必要、としています。
こうした観点から流域委員会では、目標とする治水計画規模を、(資料にあるように)、100年を見通した整備基本方針では目標流量を、4651立方メートル/s、100年に一度の雨に対応する、いわゆる1/100に設定。20年〜30年の実施期間を見通す河川整備計画では3449立方メートル/s、ほぼ20年に1度の雨に対応する1/20と設定し、流域対策、河道対策、洪水調節施設の具体策について具体的に数値も示しています。(流域対策は資料裏面参照)
当初のスケジュールでは、提言を受け県は年末をめどに河川整備計画原案・整備基本方針案などをまとめ、さらに流域委員会に提示、委員会での論議の後、県としての河川整備計画・整備基本方針を決定するとしていました。
さて、その「提言」で武庫川ダムについては、協議の結果次の4点の合意をしたとしています。(1)新規ダムによって、下流域のあらゆる洪水被害を防げるものではない。ダムをつくったとしても、並行して河道の流下能力を高め、堤防の強化を図ることが必要である。(2)新規ダムの試験湛水や洪水時の湛水によって、峡谷の生物環境および景観は厳しい状況にさらされる。(3)新規ダム建設に伴う河道の流況、水質、土壌等に大きな変化が予測され、その解明が必要である。(4)新規ダムの機能や効果についての疑問点に対して、河川管理者はきちんとこたえる必要がある。
(1) そしてこう結論付けました。(そのまま読みます。)「流域委員会としては、圧倒的多数が整備計画では新規ダムを位置付けない、または新規ダム以外を優先的に検討するという意思を表明し、現時点では新規ダムなしでもかなりの目標流量への対応が検討可能になっており、新規ダムの持つ環境問題を乗り越えてダムを選択することは困難であるという意思決定を全会一致で行なった。県が6月になって急遽作成し委員会に提出した「新規ダムの環境影響に関する検討資料」は、現時点での新規ダムの可否を判断する材料としては今後の検討課題が多く、新規ダムの可否を判断する資料とするのは現時点では困難である。したがって、次の整備計画段階で検討する際に備えての検討課題を提示したものとして扱うべきである。」というものです。
発足当初はダム推進派が圧倒的多数であるとみられていた流域委員会が、専門家も委員に加え、公開を原則に住民の傍聴や意見表明も保障し、真剣に検討を重ねる中で出したこの「新規ダムは選択しない」という結論は大いに尊重されねばならないと考えます。
ところが市はこの流域委員会提言への挑戦、否定とも取れる発言を繰り返しています。「1/30の計画を、ダム作れ」というものです。
ひとつは、7月10日開催の第46回流域委員会で流域関係7自治体首長からのヒヤリング。西宮市からは河野助役が出席し、意見を述べておられます。2つはこの8月に行なった市から県への要望、3つは提言が県知事へ提出された際の8月31日の市長のコメント、極めつけは4日、本会議でのみの村議員に対する市長答弁です。「武庫川渓谷が貴重な自然であることは承知しているが、自然は復元可能だが、奪われた人命は復元できない。天井川である武庫川ではひとたび決壊すると多くの人命と財産が失われる。したがって、十分な計算した流量を元に1/30の計画を立て、環境にも配慮してダムを建設してほしい」 質問
- 新河川法でいわれている環境との両立や、住民参加の観点からも、県や市の目指す「参画と協働」の観点からも、委員や当局の担当者、関心を持って参加し見守った市民のその労苦という点でも、流域委員会の提言は大変重みのあるものだと考えます。まず流域委員会そのものにたいする評価、そこで出された提言に対する評価をお聞きします。
- あくまで武庫川ダムを作れということだが、求める根拠は何ですか。市長の「人命が尊い。決壊すれば大変な被害となる」というご発言はごもっともですが、だからダムを作れというのは論理に飛躍があります。ダムさえ作れば安全ですか。流域委員会の提言には「ダムが万能ではない」「危機管理が重要」ということが随所に記述されていますが、どうお考えですか。
- 洪水の危険を抑える、今最も急ぎかつ確かな対策は、堤防の補強です。進捗状況とさらなる強化を求めるべきと考えますが、いかがですか。
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