子ども・子育て新システム、「地域主権改革」一括法、保育所待機児童対策の3点について質問します。
3月11日、午後2時46分、東日本大震災が起こりました。保育所では、子どもたちが午睡から起き出す時間です。「岩手県北東部にある野田村の野田村保育所(園児94人)は、海岸から400メートルに位置しています。地震発生直後、激しい揺れの中で0歳児はおんぶ、1・2歳児は避難車に乗せ、3歳児以上は走って避難しました。いつもの避難路を通っていては間に合わず別ルートで避難しました。避難所について後ろを振り返るとすでに園舎は流されていました。子どもたちはいつもと違う事態を感じ、泣く子もいませんでした」「毎年行っている避難訓練が役立った」と、振り返って所長が話しています。宮城県では39名の保育園児が亡くなりました。子どもたちを守ることができなかったと、保育士たちは「心の傷」をかかえたままです。
首都圏でも、公共交通がストップしてしまい、多くの人が帰宅困難になりました。保育所では、電話が使えず中々親と連絡が取れない中で保育にあたり、保護者が迎えに来るまで子どもたちを守りました。日頃からの避難訓練と「子どもの命を守る」ということを、日々の保育の積み重ねで実践しているからだと思います。親からは「保育園にいれば絶対安心、先生が子どもたちを守ってくれると信じていた」等の声が出され、「子どもの命を守る」ということが、保育園の究極の役割であると実感しました。そして、その土台にあるのが、公的責任や最低基準を柱にしている現行保育制度であり、その拡充と強化が必要であることが、東日本大震災を経験していっそう明らかになったのではないでしょうか。
子ども・子育て新システムについて
子ども・子育て新システムは、2010年6月「子ども・子育て新システム基本制度案要綱」が確認され、その後2011年法案制定、2013年実施をめざしていますが、保育関係者から反対があり、スケジュール通りに進んでいません。具体化の論議がすすめられる中で問題点が明らかになってきました。
(1)市町村の保育実施義務がなくなり、市町村は保育の必要度の認定と保護者向けの補助金支給、施設利用の調整・斡旋だけになります。(2)保護者の就労時間を基本に要保育度が認定され、利用できる保育時間が制限されます。(3)保育所の入所は、保護者が自ら施設を選んで、施設と契約します。(4)保育所運営費は廃止され、保護者に対する個人給付が創設されます。(5)保育料は、所得に応じた負担から、保育時間に従って増える応益負担に変わります。お金がなければ利用したい保育も利用できません。(6)企業の参入を図るため、事業者指定制度が導入され、参入も撤退も自由になります。
市議団では、「子ども・子育て新システム」について、現場の保育士さんたちの声を聞くため、今年2月、公立保育所で働くすべての方にアンケートをお願いしました。
「新システムで保育がどう変わると思いますか」の問いに「保育の質が下がる」「市の責任を後退させる」「保育行政が悪くなる」「収入によって必要な保育が受けられなくなる」等の意見が多数をしめました。
【質問】
- 国に対して現行保育制度を守るように、市として要望すべきと思いますが、市の考えをお聞きします。
「地域主権改革」一括法について
2011年4月28日、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」いわゆる「地域主権改革」一括法が成立しました。この一括法は、ナショナルミニマム(最低基準)を保障する「国の責任を」投げ捨てるもので、保育所、高齢者、障害者施設などの設備や運営の最低基準、関係法41の法律の改定におよびます。
現在、国が定めている居室面積基準は、乳児室1.65平米、ほふく室3.3平米、2歳児以上1.98平米です。戦後60年間改善されていません。2009年、厚生労働省が、最低基準のあり方について委託調査をしています。食事と午睡のスペースで2歳未満児4.11平米以上、2歳以上児2.43平米以上が最低限必要であり、これに遊びの面積を確保すべきと報告されています。さらに現行基準は諸外国と比較しても低レベルと指摘しています。本来なら、最低基準をこの調査結果に基づいて引き上げるべきです。
附則4条では、保育所の待機児童問題への対応を口実に、2012年4月から3年間、一部自治体が独自に認可保育所の面積基準を設定することができる。と、されました。2012年度は東京都中央区、港区、文京区、墨田区、三鷹市、調布市、横浜市、さいたま市、市川市、大阪市、京都市、西宮市等35市区が対象となりました。適用の要件として (1)市区町村の待機児童数が100人以上 (2)住宅地の公示価格の平均額が3大都市圏を上回る。の2点があげられています。
厚生労働省では、この件に関して2011年7月15日?8月13日までパブリックコメントを実施し、1か月の間に900件を超える意見が寄せられました。「子どもを狭いところに押し込めないでほしい」「保育の質を確保する点での懸念がある」等、35市区以外からも意見があり、反対意見が多数寄せられました。
市が、条例制定をするもうひとつが、保育士の配置基準です。現在、国の最低基準は、0歳が3対1、1・2歳児6対1、3歳児20対1、4・5歳児30対1になっています。西宮市は、1・2歳児、4・5歳児を最低基準に上乗せし、公立保育所の1・2歳児の保育士配置を5対1にしています。3歳児以上は公立、民間保育所とも20対1です。1・2歳児のみ公私で差をつける必要はまったくありません。
被災地の保育士から、「最低基準では子どもを守ることができない。もっと保育士を配置すべき」という声があります。緊急事態にあったときに幼い子どもの命を守ることを最優先にする基準が求められています。
【質問】
- 西宮市は、面積基準緩和対象35市区の自治体に入っています。中核市は独自に条例を制定することになり、市では、12月か3月に条例を定めることになっていますが、面積基準を緩和することは、子どもたちの劣悪な環境につながり、到底認めることはできません。このさい、市として省令基準を上回る条例制定をすべきと考えますが、市の考えをお聞きします。
- 保育士の配置基準については、現在の公立保育所の配置基準を市として条例制定すべきです。お答ください。
待機児童対策について
2011年4月1日の保育所待機児童は279人で、昨年より31人減ったとはいえ、以前深刻な事態です。9月1日現在の待機児童は567人になりました。
6月議会で、2013年4月には待機児童が解消するとした「待機児童解消計画」が報告されました。市は、これまでの待機児童対策として、市有地を活用して、運営法人を公募することや社会福祉法人等が、自ら用地を確保して保育所を整備する事業をすすめてきましたが、保育所用地として活用できる市有地が少なくなっていること。社会福祉法人等からの持ち込み計画については不確定などの理由で、市は、今後、保育所整備以外の待機児童対策を検討する必要があると考えていますが、待機児童解消には、認可保育所をつくり続けるしかありません。
国は、待機児童解消と称して、「規制緩和」「民間委託」「公立保育所民営化」等、保育所をつくらず、定員をこえた詰め込みや認可外の保育施設を待機児童の受け皿にしてきましたが、この間、待機児童は減少するどころか都市部を中心に増え続けています。このような対策では、待機児童を解消できないことはもはや明らかです。
2010年8月、東京都特別区議会議長会は、「国が進めようとしている規制緩和による詰め込みでは、真の待機児童解消にはならないことは明らかである」として、国に待機児童解消に向けた要望書を提出しました。公立保育所整備のための「土地取得費への補助制度の創設、及び一般財源化された公立保育所の運営費、建設費への国庫負担を復活する」ことや民間保育所に対する運営補助の拡充、保育士等の確保・定着のための人件費補助等、保育予算の大幅増額を要望しました。
今必要なことは、国と自治体で認可保育所の整備をすすめることです。
【質問】
- 待機児童を解消するには保育所をつくり続けるしかありません。市は「安心子ども基金」を活用し、民間保育所や分園等で保育所増設を進めてきました。そのことについては一定評価をするものです。しかし、民間任せでは、待機児童を解消することは困難だと市も認めています。2004年に公立保育所の運営費が一般財源化されましたが、このことによって自治体では、公立保育所の建設が困難になっています。市として、公立保育所の建設費、改築費、運営費を元に戻すよう国に要望すべきではないですか。
- それがかなうまで、市の財源を使い公立保育所の増設、分園をすすめるべきではないでしょうか。