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野口あけみの一般質問
2016年09月07日

介護保険について


 2000年に始まった介護保険制度は、2014年6月に介護保険法の制度開始以来の大幅な改定が行われ、多くは、2015年、昨年4月から施行されています。要支援サービスを見直す総合事業は、本市では3年の移行猶予期間のなか、いよいよ来年4月からスタートし、2017年度内に完全移行することとしています。
 私の質問は、この法改定、すなわち医療・介護総合確保法で、高齢者の状況がどう変わったか、来年の総合事業でさらにどう変わるか、を見てみたいと思います。
 
 介護保険制度の導入により、それまで家族介護に依存してきた日本の介護が大きく転換され、「介護の社会化」が達成されるとされてきました。しかし現実はどうでしょうか。介護保険では要介護度ごとに支給限度額が設定され、それを超える部分は全額自己負担です。細かい計算式はここでは省略しますが、最も重い要介護5の高齢者が保険で在宅での訪問介護を受けられるのは1日4時間弱。後の20時間強は、不足分を全額自己負担できる人以外は、家族が介護を担うことになります。また、保険料の負担に加えて、サービス利用には1割負担、先に述べた支給限度額を超えた際の全額自己負担などで、低所得者ほど介護サービスの利用を控え、家族介護への依存は変わらない状況です。
 このように、介護保険制度のもとでも、家族介護の負担は依然として重く、数字の判明している2004年以降、年間10万人以上の人が介護を理由に離職し、2006年以降の介護心中・介護殺人事件は毎年50件以上、週に1件の割合で起きています。
 介護保険制度の実際は、残念ながら「介護の社会化」を進め家族介護の負担をなくすというものになっておらず、これから先も「医療より介護へ」「病院・施設より地域・在宅へ」と、ますます家族への依存を強める方向に進もうとしています。

 介護保険制度導入で介護は、従来の福祉措置制度から給付金方式・直接契約方式へと大きく変わりました。また、介護事業への企業参入を促し、介護を商品化しました。このことによって市町村の直接的な介護サービス提供がほとんどなくなりました。また、利用に際しての負担が応能負担から応益負担へと転換されたことも大きなことでした。
 
 そもそも社会保障は、憲法25条で次のように規定されています。「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
 これをもっと具体的に示しているのが1950年の社会保障制度審議会の勧告です。「疾病、負傷、分娩、廃疾、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は公的負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること」とあります。
 つまり、まずは自ら働いて収入を得、自らの責任で生活を営むことは当然のことであり、このことを基本としつつ、しかし、生活を維持するうえで、個人では解決できない、また個人の責任に帰することができない、様々な制約 ―失業、疾病、傷害、老齢などー によって引き起こされる、生活の困難と貧困化を、社会的に解決する方策が、社会保障です。
 社会保障の歴史は、どこまでが個人責任でどこからを社会的責任とするか、この自己責任と公的責任のせめぎあいの歴史でもありました。社会の責任=公的責任で対応すべき領域や内容は長年の積み重ねの中で拡充されてきましたが、一方で自己責任が強調され、公的責任、特に国の責任の範囲を縮小し、社会保障の削減を進めようとする動きも繰り返し起こっています。
 そして、2014年の医療・介護総合確保法です。この法律は、医療と介護の提供体制を一体的に改革することに主眼があるとされていますが、改正生活保護法、生活困窮者自立支援法などと合わせて、安倍政権が、さらなる社会保障の大削減をすすめるために、成立させたものです。
 そして今後、安倍政権はさらに介護や医療の土台を壊す大改悪をもくろんでいます。2015年8月から一定以上所得者の介護保険利用料を2割負担としましたが、次期介護保険事業計画では、収入に関わりなくまず74歳までを2割負担に、その後75歳以上に拡大し、「原則2割」への道が開かれる危険が、濃厚となっています。さらには介護保険料を負担する2号被保険者を40歳未満にも拡大するなども取りざたされています。要支援サービスの保険給付はずしに続いて、「要介護1、2」の生活援助も見直す、また、福祉用具貸与、住宅改修などを保険給付から除外するなど、すさまじい負担増と給付減です。「国家的詐欺だ」という声が、国民のみならず、介護保険導入を主導した厚生労働省元幹部からもきかれる重大事態です。
 高齢者が大切にされない仕組みは現役世代の安心も保障されません。これ以上の変質を許さず、かつ、憲法25条を文字通り実現する、本来の社会保障の一環としての介護保険制度への改善を求めたいと思います。
 
 さて、このたびの法改定で自治体の対応が問われるものが、大きく3つあります。順不同で申し上げますが、まずは、地域包括ケアシステム構築に向けて、4つの事業の新たな制度化です。@在宅医療介護連携の推進、A認知症施策の推進、B地域ケア会議、C生活支援サービスの充実強化の4つですが、本日、取り上げるにはとても時間が足りませんので、質問は見合わせ、@の在宅医療介護連携について意見のみ申し上げます。
 医療の部門では今後いっそう、病床削減と平均在院日数の短縮が進められ、高齢者のみならず国民は在宅療養を迫られることになります。医療制度の改悪はみんなの力でぜひとも跳ね返していきたいところですが、一方で、「自宅で最期を迎えたい」という願いをかなえるために在宅医療を充実させていくことは必要なことです。そうなると国が言うところの、医療と介護の連携による在宅療養の支援や、24時間365日の訪問医療、看護、介護を提供できる体制を作っていくことなども市の大きな課題です。医師会等との連携が一層必要ですが、市の医療計画課・医療介護連携推進チームを中心に、しっかりと進めていただきたいと思います。意見は以上です。
 法改定で自治体の対応が問われるもののあと2点。
 1点目は、今回の法改定の最大の問題である要支援サービス見直し、総合事業です。
 3月議会健康福祉常任委員会の所管事務報告で「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の実施方針について」報告され、6月議会で河崎議員の一般質問に対し一定の答弁がなされています。
 現行の要支援1、2の方々の予防給付サービスのうち、訪問介護と通所介護については、地域支援事業の中で総合事業として実施されます。地域の実情に合った柔軟な取り組みにより効率的かつ効果的にサービスを提供できるように、と理由づけされていますが、端的にいえば、掃除や買い物などの生活援助(家事援助)については必ずしも介護の専門職によって提供される必要がないとして、新たな担い手にシフトし、保険給付を減らそうとするものです。 
 本市では、現在の要支援サービスを提供している介護事業者がそのまま移行し提供する、現行相当サービスに加え、本市独自の「緩和した基準による訪問型サービスA型」として、(仮称)暮らしのサポーター事業を展開します。この暮らしのサポーター事業は、県がカリキュラムを作り近隣市でも共通内容となる予定の、所定のサポーター養成研修を修了したサポーターを、サービスの指定事業者である法人が雇用し、指定事業者から利用者のもとに派遣します。指定事業者は、初年度は、シルバー人材センターと市内6つの社会福祉法人、次年度からはNPOや民間企業等も加えるときいています。
 そこで以下、総合事業について、5点、質問します。

@要支援者の訪問介護については、既存の介護事業所による現行相当サービスと、(仮称)暮らしのサポーター事業が併存します。現行相当サービスは、現在の予防訪問介護サービスと同額の介護報酬で、暮らしのサポーターはそれより低い水準で設定し、利用料負担はいづれも1割または2割と、現在と同じとするとのことです。
 さて、国のガイドラインには、これ以外にもボランティアによる訪問型サービスBなどが例示されていますが、現在のサービス水準を引き下げないためには、一定の資格や経験を有さない者によるサービス提供については安易に進めるべきではない、つまり国の言うところの訪問型サービスBを導入すべきでないと考えるがどうか。
A要支援者の通所介護(デイサービス)については、現行相当サービスが継続されると聞いているが、訪問介護のような「緩和した基準によるサービス」の実施については、どのように考えているか。
B総合事業における対象者の選定についてです。これまでは、市の窓口で認定申請を受け付け市の一連の要介護認定業務を経て要支援1,2などを決定しています。法改定では、明らかに要介護認定が必要な場合以外は、要介護認定を省略して基本チェックリストを使用し、総合事業の対象者を選定できると規定しています。これは介護保険利用希望者を総合事業へと誘導し、介護保険サービスを使わせない、権利侵害にもつながるものです。基本チェックリストのみでの対象者選定はすべきでなく、要介護認定をこれまで通り行うべきと考えるがどうか。
 また介護認定業務について、認定申請から結果通知までに時間がかかりすぎるという意見も聞いています。すみやかに認定が下りるよう改善を行うとともに、認定結果が通知されるまでの間に、暫定でサービス利用が可能なことをもっと広く周知すべきですが、どうか。
C要支援1,2の方に、訪問介護で現行相当サービス、あるいは(仮称)暮らしのサポーター事業のどちらを提供するかは何によって、誰が決めるのか。また、利用者が選択できるのか。
D財源の問題です。総合事業を含む地域支援事業は介護保険特別会計の中で経理がなされますが、事業費にその市町村の「75歳以上の高齢者数の伸び」の増加率という、上限が設けられます。サービスの提供に必要な総事業費を確保し、財源が不足する場合は、国に負担を求めるとともに、必要に応じ一般会計からも補てんすることとし、地域支援事業の「上限」を理由に、利用者の現行相当サービスの利用を制限すべきでないと考えるがどうか。

 次に2点目は、一連の介護サービス利用に対する負担増と切り捨ての問題です。
 法改定により介護サービスの大幅な自己負担増が高齢者を襲っています。
 1つ目は、先ほども申し上げましたが、それまで1割負担だった介護サービス利用の自己負担が、合計所得金額160万円以上(単身で年金収入のみの場合280万円以上)の高齢者は、2割に引き上げられたことです。この提案が国会で審議された際には「負担が増えるのは余裕ある世帯」と説明し、そのためにデータを都合よく書き換えていたことが日本共産党の追及で発覚し、厳しい批判を浴びたことは記憶に新しいところです。
 負担増、2点目は、介護保険施設に入所する際の居住費・食費の負担を軽減する補足給付を大幅に縮小したことです。(お手元に、介護保険課作成の資料を配布しています。ご参照ください)
 特別養護老人ホームに認知症で入居しているAさんの実例です。これまでAさんは夫と世帯分離して「別世帯」にし、低所得と認定され、補足給付を受けていました。法改定により昨年8月から世帯分離している夫の所得も勘案されることになり、夫が住民税を課税されているため、補足給付の対象外となり、支払額が2倍以上の月11万8500円になりました。しかし、夫婦の年金は合わせても月20万円。この特養の支払いや、自宅の電気ガス水道、税金などを差し引くと夫の手元には3万円程度しか残りません。「これでは1日1000円の生活。とてもやってられない」と嘆いておられます。
 特養や老人保健施設、またショートステイなどの食事代部屋代の軽減策=補足給付はこの例以外にも、預貯金等の資産が単身で1000万円、夫婦で2000万円を超える場合も、対象外とされました。さらに今年8月からは障害年金と遺族年金を受給している利用者の補足給付も縮小されました。
 これら、利用者負担増の法改定の影響は全国では90万人に及んでいると聞いています。
 3点目は、特別養護老人ホームの入所資格が2015年4月より要介護3以上に限定されたことです。特例で、一定の条件のあるごく一部の要介護1、2の方も入所判定の対象とはなっていますが、そもそも「2年待ち3年待ちが当たり前」の全く特養が足りていない状況のもとで、要介護1、2の方の大半が、待機者にすらなれない、というきびしい事態となっています。
 以上3点について、本市での影響はどの様なものか、おききします。