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2021年度西宮市当初予算編成に対する申し入れ書:健康福祉局
2020年08月31日


  1. 新型コロナウイルス感染者が各地で過去最高を記録するなど感染者急拡大は極めて憂慮すべき事態となっている。西宮市でも同様である。感染の急激な拡大が医療のひっぱくさらに医療崩壊を引き起こし、救える命が失われることが強く懸念される。
    政府は感染拡大抑止のための実効ある方策を打ち出さず、反対に感染拡大を加速させる危険を持つ「GO TO トラベル」の実施を強行したことは重大である。現在の感染拡大を抑止するには、PCR等検査を大規模に実施し、陽性者を隔離・保護するとりくみを行う以外にない。PCR検査については、市として以下のことに取り組むこと。
    (1)医療機関、介護施設、福祉施設、保育園、幼稚園、学校、学童保育等、集団感染によるリスクが高い施設に勤務する職員、出入り業者への定期的なPCR検査を行うこと。必要に応じて、施設利用者全体を対象にした検査を行うこと。
    (2)東京都世田谷区ではPCR検査体制の大幅拡充を独自で進めている。「誰でも いつでも 何度でも」検査が受けられる「世田谷モデル」の取り組みが始まっている。市でもこの取り組みを参考にしてさらにPCR検査拡大を進めること。
    (3)検査によって明らかになった陽性者を県が調整しているが、保護・治療する体制を市も協力してつくること。
    (4)ホームページではPCR検査数、陽性者数を公表しているが、感染者のプライバシーを考慮しながら、市における感染者の特徴、陽性率、保護や治療状態も公表すること。

  2. 保健所は、1937年制定の保健所法によって、結核等などの伝染病のまん延に対する衛生思想の啓発や疾病予防を目的に設置された。現在では94年改正の地域保健法の下、感染症対応や精神保健、食品・環境衛生に関する指導、医療法に基づく医療機関の監視など業務は多岐にわたる。しかし、行政改革によって94年度に全国で847
    か所あったものが2020年度には469か所に減らされ、職員数も減っている。本市でもコロナ感染症の対応に重要な役割を果たした。しかし、通常業務もありながらの対 応では、保健所職員だけでは応じることができずに他課職員の応援を必要とした。
    今後、同様の新興感染症が起きた場合に対応するためにも保健所の機能拡大は待ったなしの課題である。市として以下のことに取り組むこと。
    (1)保健師の採用を増やしているが現場の声をよく聞いて必要な人員をさらに増やすこと。また、行政職も含めて職員増をすすめること。
    (2)コロナ禍での妊婦への支援としてマスク、消毒液の配布や希望者には分娩前のPCR検査、感染した妊婦への退院後の訪問、電話、さらにはオンライン等を使っての顔を見ながらの支援を整備しているが、通常の妊婦健康診査助成は2015年度に回数14回、上限82,000円に増額されたものの、なお全国や県平均を下回っている。増額すること。
    (3)乳幼児健康診査や訪問指導事業など母子保健事業は、乳幼児の発達支援や虐待予防にとって重要な事業である。特に孤立しがちな母子や多胎児、若年妊婦については妊娠中から出産・育児と切れ目なく支援できるよう、保健師など専門家の人員増を図ること。
    (4)健康増進を図るため、がん検診や歯周病疾患健診等を実施しているが、受診率はまだまだ低い水準にとどまっている。受診者を増やすためにいっそうの努力を行うこと。また、乳がんなど、り患年齢が低いがんについては対象年齢を引き下げ、対象者を拡大すること。

  3. 介護保険制度は施行20年を迎えた。政府は制度改悪を繰り返し「国家的詐欺」と言われるまでに、介護の危機は深刻化している。
    厚労省は、2021年度からの「第8期介護保険制度」改定にむけて、さらなる負担増と給付抑制の議論をすすめ、2019年12月には「介護保険制度の見直しに関する意見」を提示し、高額サービス費と捕捉給付(施設入所者の食費・居住費の助成)の負担増を打ち出している。実施には法改定の必要性はなく、国会審議にもふさず、2021年度からの施行を狙っている。さらなる負担増や給付削減は高齢者にも、それを支える現役世代にも痛みを押しつけるものであり批判の声を上げる必要がある。
    介護保険制度は大きくは国が制度設計をしているが、高齢者の実態を踏まえ市として国に対して改善を求めること。さらに、コロナ禍において市独自で取り組むことを以下に要望する。
    (1)介護保険料に対する国庫負担は20%と調整交付金の5%に分けられているが、調整交付金は満額支給となっていない。これを満額支給することと合わせ、国庫負担金を30%に引き上げるよう国に求めること。
    (2)介護保険料は原則年金天引きで収納率は98%と高いが、年金が月1万5千円以下の年金天引きでない保険料滞納者に対して、差し押さえ処分を行っている。こうした処分をやめること。また、厳しい保険給付制限をやめるよう国に求めること。
    (3)制度発足時には1割であった利用料負担が、所得によっては2割、3割負担となった。さらに、今後はすべて原則2割負担の導入が狙われている。市民のくら  しへの影響や利用控えの状況などを具体的に把握し、撤回を国に求めること。
    (4)利用料減免制度の創設を国に求めること。
    (5)低年金の人が要介護状態になったときに最期まで入居できる施設は特別養護老人ホームしかない。しかし、市内の特養待機者は依然多く、同施設の不足は引き続き深刻な事態である。市として特養をさらに増設すること。また、入所資格の制限は見かけ上の待機者数を減らし、「介護難民」を放置しただけであり、国に対し、入所資格の撤回を求めること。
    (6)小規模多機能型施設、グループホーム、ケアハウスなど特別養護老人ホーム以外の多様な施設についても基盤整備を進め、食費や部屋代への公的補助など、低所得者が利用できるよう国に改善を求めること。
    (7)市独自の保険料減免を行なっているが、対象はわずかである。一般会計からの繰り入れで、減免を拡充すること。
    (8)低所得者への利用料減免制度を市独自で創設すること。
    (9)高齢者にとって大変重い負担となっている介護保険料を、他市では一般財源を投入して引き下げをしている事例がある。市も一般財源を投入して引き下げること。県に対しては県基金の活用も求めること。
    (10)市が高齢者と唯一、直接関わっているのが介護認定作業である。認定調査の一部を民間委託しているが、これ以上民間委託をすすめれば市が高齢者の実態を把握できなくなる恐れがある。民間委託はやめ直営を守ること。
    (11)地域包括支援センターの役割は引き続き重要である。市独自で一般財源を投入し、センター増設や職員増等、充実させること。
    (12)新型コロナウイルス感染を恐れて介護サービスの利用控えがおこっている。特に通所介護では利用者が大幅に減り施設は減収になっている。市はアンケートを実施し65.5%の法人から減収の影響ありと回答があったとしている。2020年補正予算で利用控えによる減収への対応として1施設あたり30万円を補助することになったが不十分であり、存続があやぶまれる事態となっている。市としてさらに増額すること。
    (13)介護現場は深刻な人手不足に陥り新型コロナウイルス感染で介護の基盤がぜい弱であることが問題となっている。介護と福祉の提供体制を強化するためには労働条件の抜本的改善、担い手の育成確保が不可欠である。介護や福祉の仕事は人と人が密着することで成り立ち、さらに感染の恐怖と闘いながら仕事をしている。しかし、平均賃金は全産業平均を10万円も下回っている。賃金を引き上げるよう国に求めること。

  4. 要支援1、2の訪問・通所介護を「介護予防・日常生活支援総合事業」で保険給付から外したが保険給付に戻すこと、また、政府が検討する要介護1、2の保険給付外しをやめるよう国に要望すること。

  5. 老人福祉法では、高齢者は「多年にわたり、社会の進展に寄与してきた者として、かつ、豊富な知識と経験を有する者として敬愛されるとともに、生きがいをもてる健全で安らかな生活を保障されるものとする」と、基本理念が明記されている。高齢者が、安心して暮らせる社会をつくることは自治体や国の責任である。
    市として、以下のことに取り組むこと。
    (1)コロナ禍で外出ができないことや通所介護の利用控え等で、認知症が進んでいると聞く。今後も認知症高齢者が増えていくと思われるが、引き続き認知症に対する正しい理解を広げ、対策を進めるための事業を拡充すること。
    (2)家庭内だけでなく高齢者介護施設での虐待や死亡事故・事件が頻繁に報道されている。高齢者虐待相談窓口が設置され対応が進んできているが、今後も重要である。窓口の存在を周知し、いっそう充実を図ること。
    (3)福祉タクシー制度は障がいのある人や高齢者の外出支援策として有効な施策であり、ますます充実が図られるべきものである。重度在宅精神障害者も適用対象となったが、さらなる対象者の拡大や助成額の増額、予約制と初乗り制の選択制をやめて柔軟に対応できるよう、制度の改善をはかること。
    (4)高齢者の難聴は放置すると認知症につながるといわれている。補聴器購入時に市独自で補助する制度をつくること。
    (5)UR(都市再生機構)や民間賃貸住宅の家賃が高く高齢者の暮らしを圧迫している。「住宅は福祉」という観点から高齢者に対する家賃補助制度を創設すること。

  6. 高齢者交通助成制度は鉄道会社の協力が得られず事業が中止になる。それに代わるものとして市は「健康ポイント」事業を実施するとしている。歩数ごとにポイントを付与するものだが、歩行困難、障害のある高齢者等が除外される等、限られた人が対象になってしまう。障害者や要介護状態にある70歳以上のすべての高齢者を対象とする制度を構築すること。

  7. 障がい者(児)施策について 
    障害者基本法では、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重しあいながら共生する社会を実現するため」と定められている。障がい者の差別をなくし、尊厳をまもることは、国際的にも大きな流れになっている。憲法と障害者権利条約の理念を地域の隅々に広げながら、だれもが安心できるインクルーシブ(排除しない)な社会の実現をめざすことが求められている。障がい者予算の引き上げを国に要望するとともに、市としても以下のことに取り組むこと。
    (1)新型コロナウイルス感染症にかかる影響調査で52.6%の障がい福祉事業所から減収の影響があったと回答している。補正予算では利用控えの減収への対応も可能とする30万円を補助することになったが不十分である。市としてさらに増額すること。
    (2)福祉の労働者は人とかかわる仕事であり、事業所では、新型コロナウイルス感染の恐怖と闘いながら仕事をしている。福祉労働者の賃金は全産業の平均を10万円下回っている。賃金を引き上げるよう国に求めること。
    (3)障害者総合支援法で、国は応益負担の問題は解決済みとの立場であるが、1割  の定率負担は残され、低所得者は無料になったとはいえ、負担上限額は変わらない。「応益負担」制度を廃止し、速やかに無料化するよう国に求めること。またそれまでの間、配偶者の収入認定はやめて本人所得のみの収入認定とすることを国に求めること。
    (4)障がいのある人が65歳になると総合支援法から介護保険が優先される仕組みになっている。介護保険優先原則の廃止を市として国に要望すること。
    (5)事業所に対する報酬の日額払いを月額払いに戻し、正規職員の配置を中心とした雇用とし、また報酬の底上げを行うよう、国に求めること。
    (6)障害者総合支援法に基づく障がい福祉サービス等は、各自治体で基準を設け支給している。たとえば、社会参加の促進のために、視覚障がい者に対して支給している同行援護(ガイドヘルパー)は月60時間である。これは近隣市もほぼ同程度の利用時間数となっているが、月80時間支給している市もある。他市の状況も調査し、時間数の拡大をすること。
    (7)国の基本指針では障がい者入所施設から地域生活への移行を進めるとしているが、地域における居住の場であるグループホームは圧倒的に少ない。また、障がいの状況などによっては入所施設の役割も重要である。どちらも計画的に増やすこと。
    (8)市内視覚障がい者団体から、音声血圧計を日常生活用具に加えることや、点字ディスプレーを現在の「視覚聴覚障害2級以上」から他市のように「視覚障害単一」を対象とすること。障害者手帳を持たない軽・中度難聴児への補聴器購入補助を成人視覚障害者にも適用することなどの要望が出ている。市として対応すること。
    (9)障がい者施設や自宅で家族による暴言、暴力等の虐待がある。虐待については生活支援課が相談窓口となっていることを広く市民に知らせること。また、障がいのある人の人権を守るため職員の研修等スキルアップを図ること。
    (10)見た目ではわかりにくい障がいをもつ人がつけている「ヘルプマーク」がまだまだ市民には知られていない。ホームページや市政ニュースで周知し普及を図ること。また、電車やバス等の座席にマークを標示し、「ヘルプマーク」を駅でも配布するよう市として要望すること。

  8. 障がい者の労働の保障
    国の基本指針では、障がい者の福祉施設から一般就労への移行を進めるとともに、個人の特性や本人の意思に対応した福祉的就労も重視して取り組むとしている。以下についてとりくむこと。
    (1)障がい者雇用を増やすために、引き続き企業への啓発活動を強めること。そのステップとなる市における障がい者臨時雇用を推進すること。
    (2)福祉的就労である就労継続支援(A型)、同(B型)が多様に展開されるよう
    市としての支援を強めること。

  9. 生活保護について
    生活保護は憲法で保障された国民の権利である。しかし、2012年頃から自民党国会議員らによる生活保護バッシングが激化し、国民の中に「生活保護は恥」という意識がいっそう植え付けられた。日本共産党は生活保護を使いやすくするため、生活保護法を「生活保障法」に変えるなどの提案を行っている。今後はコロナ禍で失業し生活保護受給者が増えていくと考える。安倍首相も国会答弁で「誰にでも生活保護を必要とする事態が訪れる可能性があるから、ぜひ積極的に活用していただきたい」と答弁している。(2020年6月参院決算委員会)市として以下のことに取り組むこと。
    (1)「健康で文化的な生活保障」の観点に立った制度となるよう、老齢加算の復活、生活扶助費、住宅扶助費など保護基準(最低生活費)を引き下げるのではなく、引き上げを国に求めること。
    (2)離職や廃業に伴い、住居を喪失またはその恐れのある人には一定期間家賃相当額の支給を行う住居確保給付金については、コロナ禍で収入が減少した人も受給できるように制度を改正した。しかし、預貯金が単身で50万円以上あれば受給できない。預貯金の要件を見直すよう国に要望すること。
    (3)生活上経済上の悩みを抱える市民に心を寄せ、問題解決をはかっていくのが面接相談員や、ケースワーカーの役割である。国基準(被保護世帯80世帯に1人)に比べて少ないケースワーカーの増員が一定はかられたが、引き続き増やすこと。また、質を高める研修をすすめること。
    (4)扶養義務について、「扶養義務の照会が生活保護受給の要件ではない」「家族の問題に行政が踏み込んでいくことは相当慎重にしなければならない」との国会答弁がある。この点を踏まえ、申請を躊躇させるような、従来以上の扶養義務照会を行わないこと。
    (5)生活困窮者自立支援法の下、稼働能力を有する要保護者に就労支援や指導を行っているが、一人一人の実情や条件に応じた丁寧な支援を行うこと。また、保護の辞退を誘導するような指導はいっさい行わないこと。
    (6)近年の酷暑でエアコンの使用は不可欠だ。設置については自己負担となっているが市独自で補助すること。また、電気料金の負担からエアコン使用を躊躇している受給者も多い。電気料金への補助を検討すること。
    (7)市の一般財源による、夏季・冬季見舞金および上下水道料金の基本料金免除を復活すること。
    (8)厚生課及び生活支援課の相談室は、間仕切りのみでプライバシーが全く保たれ
    ていない。抜本的に改善すること。さらに、透明の幕を張るなどコロナ対策をすること。
    (9)家賃の上限を超えると転居を進めているが、無理に転居を強要することなく、本人の暮らしや要望をよく聞いて対応すること。

  10. 青年期から中高年期にかけての「ひきこもり」が社会問題となっている。この背景にあるのが「生きづらさ」「やり直しがきかない社会」にあると専門家からも指摘されている。「ひきこもり」は自己責任とされ当事者や家族が声をあげることができなくされている。保健所が対応しているが、就職や生活保護等、問題が多岐にわたると思われる。市として総合的な窓口を設置すること。