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2021年度西宮市当初予算編成に対する申し入れ書:教育委員会
2020年08月31日


  1. 新型コロナウィルスの感染が拡がる中、これまで通りの学校教育を続けていくわけにはいかない。子どもたちを感染から守り、一人ひとりを丁寧にケアしていくためにも、以下に示す抜本的な体制の改善を求める。
    (1)学校で子どもたちが最も長い時間を過ごす教室において十分なソーシャルディスタンスを確保するために、20人程度の授業ができるよう工夫をこらすこと。
    (2)スクールサポートスタッフや学びの指導員の増員は決定されているが、大規模校等にとって十分な配置になっているとは言い難い。求めに応じて増員できるように、市教育委員会独自ででも対応すること。また、配置にあたっては、学校任せにするのではなく、市教育委員会が責任を持って配置につとめること。
    (3)休校中のストレスも深刻だったが、様々な我慢が強いられる中での学校生活のストレスも深刻であり、子どもたちや教職員に対する心のケアは重要である。早急にスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの増員を図ること。
    (4)休校中に多くの授業時数が失われたことは事実だが、それを取り戻すことを優先するがために「詰め込み授業」を行えば、学校嫌い・勉強嫌いを大量に生み出しかねない。「詰め込み授業」を各校に押し付けないこと。特に、受験を控えている中3生に対し「詰め込み授業」が行われてしまう懸念がある。県教育委員会に対し、受験範囲を狭めるよう配慮を求めること。
    (5)「学び=学力向上」ではない。むしろ子どもたちにとって重要なのは、行事等を通して友人たちと触れ合ったり自分自身と向き合ったりすることであり、そこにこそ「学び」の本質がある。子どもたちにとって大変重要な行事活動を安易に削減せず、できる限り実行できるよう工夫をこらすこと。
    (6)密を避けられない学校生活の中で、子どもたちも教職員も感染への不安を強く抱いている。安心を与えるという意味でも、無症状感染者を見つけ感染を拡大させないという意味でも、定期的にかつ必要に応じて、子ども・教職員・出入り業者など関係者全員に対し、積極的にPCR検査を実施すること。
    (7)委託業者による清掃を強化すること。特にトイレ清掃の回数増は急務である。対応すること。

  2. 新型コロナウィルスの影響を受け、今年度中にはタブレット端末を児童・生徒に1人1台配布することとなった。以下、ICT化やオンライン授業等について具体的に要望する。
    (1)タブレット端末は、当面はコミュニケーションの一助として使うとのことだが、オンライン授業の準備も進められていくことになる。オンライン授業はこれまでにない取り組みであり、丁寧な検証が必要である。教職員の声をよく聴き、教育の場にふさわしい形となるよう、その活用について研究していくこと。
    (2)GIGAスクール構想においては「個別最適化された学びが可能になる」ということが謳われている。先進事例と言われるアメリカの一部の学校では、この「個別最適化」が進みすぎたがゆえに、教室が個人のブースで区切られ、一人一人が自分のレベルに合った問題をひたすら解いていくだけの場と化し、教師も不要とされる事態になっている。そのような誤った方向へ行かぬよう、タブレット端末の活用方法を十分に注視していくこと。

  3. 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」によって、教育委員会の制度は大きくかえられた。その後も教育行政に関する教育委員会の権限は変わらず保たれているとのことだが、ともすれば市行政の介入を招きかねない。
    新型コロナウィルスの影響による全校一斉休校は、緊急事態ということもあり、市長と教育長らのみで決定してしまい混乱を招いた。いくら緊急事態であったとしても、教育委員に諮ることが重要であり、教育行政の権限を市行政に譲ってはならない。市行政よりも、現場の声を大切にすること。

  4. 子どもの人権と教育の機会均等を侵害するいじめ・貧困・虐待・高学費などの様々な諸問題が深刻である。これらの問題を解決する理念と行動の指針となる「子どもの権利に関する条例」の制定を、西宮市でも検討すること。

  5. 道徳教育が2018年から小学校で、2019年から中学校で教科化された。そのことにより、「こうあるべきである」という画一的な道徳的価値観が教え込まれている懸念がある。道徳の授業において、教員の自由裁量を保障し、子どもたちの内心の自由を侵害することのないよう徹底すること。

  6. 平和・人権教育について、以下の点を要望する。
    (1)平和教育を重視し、平和の尊さとともに、日本の侵略戦争と植民地支配の歴史的な事実や反省を、児童・生徒に伝えること。公教育のなかで侵略戦争を美化・肯定するようなことは決して許さないこと。
    (2)2017年に国連で核兵器禁止条約が採択され、各国政府の署名が広がり批准も広がっている。2020年8月に行われた原水爆禁止世界大会の最中に新たに4ヵ国の批准があり、8月17日現在で44ヵ国の批准となった。条約発効まで残り6ヵ国となっている。このような情勢を踏まえ、被爆の実相を語り継ぎ、核兵器の非人道性を児童・生徒にも知らせるなど、平和教育をさらに充実させること。
    (3)2020年6月7日に『火垂るの墓』記念碑が西宮震災記念碑公園に建立された。また市内には、アンネのバラ教会などもある。このような資源を十分に活用し
    ながら、学習を進めていくこと。
    (4)コロナ禍にアメリカで起きた警官による黒人男性殺害事件を契機として、世界中で人種差別反対運動が巻き起こり、これまで英雄とされてきた植民地支配の指導者の像が各地で撤去されるなど、見方が大きく変化してきている。このような情勢を的確にとらえ、あらゆる差別を許さず一人ひとりの人権を大切にする教育を充実させること。
    (5)本市においては、性的マイノリティ(LGBT)の人たちのための施策として「同性パートナーシップ制度」の条例化が検討されているが、当然学校においてもLGBTの人たちのための施策を進めていかなければならない。当事者たちが偏見や誤解で苦しむことがないよう、正しい情報を十分に子どもたちに伝えていくこと。同時にトイレや制服等の環境を整えていくこと。

  7. 2020年度より新学習指導要領が本格実施となり、英語教育が小学3年生から「必修化」、小学5年生から「教科化」された。また、プログラミング教育も小学校から順次導入されている。このことに関して、以下の点に十分留意すること。
    (1)英語教育は小学校教員にとってただでさえ負担が大きい上に、新型コロナウィルスの影響もあり十分なコミュニケーション活動をすることが難しく、現場の教員の不安は強い。これらの不安や負担を軽減していくために、現場からの声を十分に聞き取り、ALTを増やすなど丁寧な支援を行っていくこと。
    (2)プログラミング教育は新たな分野である上に、新型コロナウィルスの影響も重なり、現場は混乱していると思われる。教職員の声を聞きとったり、児童の反応をよく観察したりして、適切な教育が行われるよう丁寧な支援を行うこと。
    (3)プログラミング教育が導入され、総合的な学習の時間や生活の時間などがプログラミングに充てられている現状がある。子どもたちの貴重な体験学習等の時間を削ってまで行うような“過度”な実施とならないよう、指導していくこと。

  8. 2019年度に神戸市で起きた教員間のハラスメント問題が大きな波紋を呼んだが、学校現場でのセクハラやパワハラ、また、体罰・暴力は、教員と生徒、あるいは生徒と生徒の間や教員と教員の間など、いかなる関係性においても絶対に許されることではない。実態把握に努め、万が一不祥事が発覚した際には、その問題を隠ぺいすることなく明らかにし、適切な対応をすること。

  9. 全国で少人数学級がひろがっているが、兵庫県・大阪府・広島県・熊本県の4県のみが未だに中学1年で「35人学級」を実施していない。「35人学級」を小・中学校全学年で実現することを国と県に求め続けること。さらに、30人学級の実現に向け、必要な正規教職員の確保や施設整備に対しても、国や県に必要な対応を求めること。実現するまでの間、市独自で少人数学級を実施すること。

  10. 2016年度より、本市の小中学校の不登校数が急増しており、その後も増え続けている。不登校問題について、以下、要望する。
    (1)不登校児童生徒のための施設「あすなろ学級」の施設名称が、2020年度より「適応指導教室」から「教育支援センター」に改められ、その目的も「学校復帰」から「社会的自立」となった。そのこと自体は前進だが、実際は中身が伴っておらず、いまだに「学校復帰」を目的としたような環境で運営されている(学校の黒板や机を使う等)。早急に中身も見直し、個々の児童生徒に応じた対応とすること。
    (2)今後、1人1台のタブレット端末が配布され、オンライン授業の取り組みが進められていくことになるが、不登校児童生徒に対してもその活用を検討していくこと。そして、オンライン授業に参加した際の出欠の扱いに関しても十分に検討していくこと。
    (3)民間フリースクールに通っている子どもたちの出席扱いの判断基準が不明瞭であり、現場は混乱している。尼崎市が作成しているような「指導要録上出席扱いとすることができるフリースクール一覧」を本市においても作成すること。
    (4)以上のような施策を検討する際には、当事者の声を十分に聞き取ること。検討会議のメンバーとして当事者も含めるなど、その仕組みを構築すること。

  11. 教職員の「超多忙化」・「非正規化」を解決するために、教職員定数の改善を国に求めるとともに、以下の項目にとりくむこと。
    (1)2020年4月現在の本定欠教員が小学校で9.35%、中学校で11.70%となっている。定員についてはすべて正規教員で確保するよう、県に強力に求めること。 
    また、非常勤講師の加配、産休代替教員の確保についても、適正に行われるよう要望すること。
    (2)国は教員に「変形労働制」を適用し、多忙化をやわらげようとしているようだが、それでは全く解決にはならない。むしろ授業日の勤務時間が延び、これまで以上に忙しくなってしまう恐れすらある。本市において「変形労働制」の導入は絶対にしないこと。
    (3)教員の負担軽減や部活動の質的向上を図るためとして、2018年度からモデル事業として中学校の部活動指導員が3名配置され、その後拡充されてきているが、早期に全校配置を行い、1クラブにつき1人の配置をめざすこと。
    (4)新型コロナウィルスの影響を受け、これまで以上に教員増が求められている。教員免許更新制は、国に廃止を求めること。

  12. 特別支援教育について、次のことにとりくむこと。
    (1)多様な様子を示し、程度もさまざまな発達障がいの子どもが増えている。引き
    続き教員加配を県に求めること。
    (2)支援が必要な子どもには学校協力員を配置することができるが、あくまでもボランティアという立場であり、1日4時間までという制約がある。そのため支援が必要であるにも関わらず協力員のいない空白の時間が生まれ、現場では困惑している。この際協力員を職員として採用し、1日配置できるように制度を見直すこと。

  13. 全国学力テストは子どもに過度な競争を強いるだけでなく、学校間の序列を生むものである。また、市が実施しているリサーチプラン学力テストも同様である。特にコロナ禍においては児童・生徒および教職員にとって負担でしかない。2020年度は中止となったが、今後も継続して中止とすること。

  14. 県の一斉事業であるトライやる・ウィークは、各中学校で受け入れ先の事業所を探さなければならないことや、地域によっては受け入れ先の確保に困難が生じるなど、関係者の負担が大きい。また、実施先で宣伝チラシの配布をさせられるなど、労働の肩代わりという問題も生じている。さらに、塩瀬中学校では父母の抗議があったにもかかわらず連続して自衛隊を体験先とするなど、多くの問題が噴出している。現場の意見を十分聞き取った上で、全校一律・一斉で実施するのではなく、各学校で実施しないことも含め、柔軟に対応できるよう改善すること。

  15. 「自然学校」は、教職員の多大な負担となっている。また、指導員の不祥事など、教育現場ではあってはならない重大問題が生じている。「自然学校」のあり方については、ここで改めて十分検証し、実施日数等を各学校の判断で調整できるよう見直していくこと。

  16. 学校施設の老朽化対策は、大幅に遅れている。それは、国の教育予算が圧倒的に少ないためである。政府はそうした姿勢を変えないまま、「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」を公表し、西宮市においてもその手引きに沿って「西宮市学校施設長寿命化計画」が策定され、各学校を80年〜100年長寿命化させる無謀な内容となっている。学校施設の老朽化対策予算の大幅な引き上げを政府に要求するとともに、本来建て替えが必要な施設は、建て替え計画を策定すること。また、新増改築に際してはアスベスト対策を確実に行うこと。加えて、更衣室の設置・トイレの洋式化などは積極的に進めていくこと。

  17. 近年、猛暑は災害と言われるほどになっている。2020年度中に中学校体育館にエアコンが設置されることは決まっているが、なによりも児童生徒の命と健康を守ることを優先し、小学校と高校の体育館への設置も進めること。
    また、新型コロナウィルスの影響により先送りにされたが、道路や鉄道、航空機などの騒音対策として設置された空調の老朽化が進んでいる。早期に整備すること。

  18. 近隣他市と比較し、本市の学校司書の配置は圧倒的に少ない。学校司書の配置を拡充していくとともに、早期に専任の司書教諭を全校に配置すること。

  19. 「直営自校方式」で実施されている西宮市の小・中学校での学校給食は、食育の観点からも子どもたちの健康と成長を守る上でも大きな役割を果たし、保護者からも喜ばれている。以下のことにとりくむこと。
    (1)将来的にも「直営自校方式」を堅持すること。
    (2)正規調理員を基本とした人員を確保すること。
    (3)夏場の調理室では40℃を超えることもある。調理員の健康面でも食材等の管理の面でも、空調の整備が必要である。実際に、2020年度の夏季短縮授業中に通常の給食が実施できなかった理由の1つが空調の未整備であった。毎年4校ずつ程度整備を進めているとのことだが、そのペースでいくと全校整備まであと10年程かかる。予定を早め、早急に整備すること。
    (4)給食費の無料化に踏み切る自治体が広がっており、2017年度の文科省の調査によれば4.4%の自治体で無料化を実施している。給食は食育であり、よって教育費の無償化という教育基本法や憲法の精神に立ち、無料化を検討すること。
    (5)国産の食材を積極的に使用していくこと、とりわけ地産地消を進めていくことは重要である。2020年度から国産小麦を使用したパンを提供していることは大きな前進であり、そのような取り組みをいっそう推進していくこと。
    (6)自分たちで育てた米や野菜を食すという体験は、食育の観点から非常に重要なものである。そのような体験をすべての児童生徒にさせてあげられるよう検討すること。

  20. 無秩序な開発により学校施設が不足する事態が生じ、それに対応するために「教育環境保全のための住宅開発抑制に関する指導要綱」を策定したが、「教育環境保全」に十分な効果を発揮しているとはいえない。仮設教室での対応が可能であれば規制の対象外としていることや、児童数推計の甘さなどに、その原因がある。規制強化の方向で要綱の内容を抜本的に見直し、条例化を検討すること。

  21. 2020年4月に「西宮市立総合教育センター付属西宮浜義務教育学校」が開校した。初年度から新型コロナウィルスの影響による長期休校があり、2020年8月現在では評価ができない状態である。しかし、校区外からの入学・転入者は2020年度で21名、2021年度は10名以下の見込みであるということから、当初の「単学級を解消する」という目的を達成できる見通しはほぼないということは明らかである。このことから、現時点では義務教育学校の意義は見えず、これを全市に拡げていくという構想は見直すこと。

  22. 2020年8月の所管事務報告において、市の保育所待機児童対策として、2021年度から1〜3歳児を対象とした「特区小規模保育事業」をスタートさせ、2022年度からその連携事業として市立幼稚園の4,5歳児クラスで預かり保育を行う計画が発表された。しかし、1〜3歳までの成長の幅は大きく「特区小規模保育事業」で適切な保育が行われるのか懸念があり、また市立幼稚園の預かり保育事業もあくまでも「預かり」であり、十分な保育の質を保つことができるのかは甚だ疑問である。この際、保育の質を保ちつつ待機児童を解消する策として、市立幼稚園の認定こども園化を検討すること。

  23. 図書館について、以下のことにとりくむこと。
    (1)正規司書職員を増員し、すべての図書館に配置すること。
    (2)生活上の課題解決に資する情報拠点としての機能の充実のため、2020年度より運営体制の見直しが行われ、北部図書館の基本業務の民間委託が行われた。しかし、民間委託は情報拠点としての機能を充実させるどころか低下させるものである。北部図書館を直営に戻し、今後他の図書館に民間委託を拡げないこと。

  24. 公民館については、以下のことを留意し、改善を図ること。
    (1)公民館は、社会教育施設としての重要な役割がある。西宮市の公民館の歴史的役割・経過も踏まえ、さらに充実・発展させること。
    (2)各公民館の視聴覚設備については最新のマルチメディアに対応できるものを配置・整備すること。また、WIFI設備を各公民館に整備すること。