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野口あけみの一般質問
2025年12月16日

「いのちのとりで」裁判判決を受けて


 国は、生活保護基準のうち、食費や光熱費など日常のくらしに欠かせない生活扶助費について2013年から15年にかけて、物価の下落率4.78%を踏まえた「デフレ調整」と、低所得世帯との格差を是正する「ゆがみ調整」に基づき、最大10%、平均6.5%引き下げました。
 1950年の生活保護制度開始以来、扶助費基準の引き下げは2003年度0.9%、2004年度0.2%に続き、3回目にして6.5%という大幅引き下げでした。
 この引き下げは、憲法第25条が保障する生存権の侵害であり、それを具体化した生活保護法違反として、2014年から全国の利用者が29地裁に国と自治体を訴えた裁判を起こしました。原告は1000人を超えます。
 この裁判闘争は、「いのちのとりで」裁判といわれています。「砦」とは、古代の戦争において外敵を防ぐために築造した建造物、要塞のことで、最後の砦などという言葉はよく聞きます。現代の言葉としては、「砦」とは「守る」ことの象徴として使用されています。
 というのも、生活保護制度自体が、政府が国民に対して最低限の生活を保障するナショナルミニマム、セーフティーネットであり、また、保護基準は、最低賃金の水準や各種減免基準、就学奨励金などなど、現在、少なくとも47の社会保障、教育、税など様々な制度の適用基準と連動しているからです。生活保護制度は、まさに生存権=命を守る砦であり、その制度、制度の理念・魂を守るための裁判だから、「いのちのとりで」裁判といわれたのです。
 11月14日時点で、地裁では20勝11敗、高裁10勝5敗です。そして愛知、大阪両訴訟について最高裁にて、今年6月27日、原告勝訴の歴史的判決が下されました。厚労省は、生活保護基準の審議を行うための社会保障審議会・生活保護基準部会を持っていながら、ここでの報告書が出された後に、独自の統計データをもとに引き下げを実施したのは、専門的知見との整合性を欠いた「厚生労働大臣の裁量権の乱用」であり、物価変動率のみを直接の指標として引き下げた「デフレ調整」は違法とし、処分を取り消すという内容です。
 全国弁護団と、当事者と支援者で構成するいのちのとりで裁判全国アクションはこの判決の日以来、厚労省に対し、すべての生活保護利用者に対する謝罪と、改定前基準との差額保護費の遡及支給(=被害の補償)などを要請し、一連の訴訟の早期全面解決を図るべく、「基本合意書」締結に向けて、実質的な交渉を行うよう求めてきました、しかし、国はこれを拒否。そして8月、厚労省は「最高裁判決への対応に関する専門委員会」の設置を強行しました。
 <資料1>の 「いのちのとりで裁判10.28大決起集会の集会アピール」をご一読いただくと、裁判に至った経緯、裁判勝訴の意義、そして判決から4か月たってもなお、謝罪もなく、被害回復のめども立っていないことへの静かな怒りと抗議の意思をお判りいただけるかと思います。
 その専門委員会が、つい先ごろ、11月18日にようやく報告書をまとめて公表しました。報告書には、原告についても原告以外についても、違法とされなかったゆがみ調整のみをおこなうとする案など4案が示されています。
 そして、11月21日、厚労省はこの報告書等を踏まえた対応の方向性を示しました。<資料2>に、厚労省の資料から一部抜粋し紹介しています。これは、<資料3>に示した、いのちのとりで裁判全国アクションの緊急声明の冒頭でまとめられているとおり、原告を含むすべての生活保護利用世帯に対し、?最高裁判決で違法とされなかった「ゆがみ調整(2分の1処理)」を再実施するうえ、?最高裁判決で違法とされた「デフレ調整(−4.78%)」に代え、低所得者(下位10%)の消費実態との比較による新たな高さ(水準)調整を「−2.49%」行う一方、?原告については「特別給付金」として?の減額分を追加給付するというものです。
 これに対するいのちのとりで裁判全国アクションの見解も、<資料3>の声明に記載されていますが、今、弁護士や医療、福祉など様々な団体や一般紙社説などでも批判の声が広がっています。
 そのうち、朝日新聞11月28日付社説を、かいつまんでご紹介します。
 社説では、「争いの蒸し返し」という批判は免れない。解決が見通せない対応だ、とした上で、三つの問題を指摘しています。
 一つめの問題は、新たなモノサシを使って、減額をやり直すことの是非です。最高裁判決は、物価下落を反映する「デフレ調整」を違法としました。そこで、厚労省は専門委員会で経済の学者3人を中心に議論し、消費実態を反映させて、「最低限度」を測る新たなモノサシをつくりました。一方、同委員会の法学の専門家3人は、少なくとも原告に対しては「紛争の蒸し返し」になる懸念から、新たなモノサシでの減額に反対していたのです。
 二つめは、原告にのみ「特別給付金」を渡して、それ以外の人と対応を分けることの是非。今回の裁判の原告は、同じ境遇にある人たちを代表して訴えたという性格があり、生活保護の「無差別平等の原理」に照らしても、適切ではないとの指摘です。
 三つめが、違法とされた「デフレ調整」の検証が不十分なこと。2012年に政権奪還をめざした自民党が掲げた「給付水準の原則1割カット」の公約による影響の解明と、反省は欠かせないのではないかという指摘です。
 社説では、「政治がもたらした過ちは、行政の理屈だけでは十分に是正できない」「高市首相は国会で『深く反省し、おわびする』」と謝罪したが、今回の対応策が、その具体化とはとても言えない」と締めくくっています。
 私は、この朝日新聞の社説にまったく同感です。

 質問です。
1,最高裁で違法とされた、2013年から15年にかけての生活保護基準引き下げの、本市での実態をおききします。

2,厚労省の方針を受けた、今後の本市の対応と課題について、今わかる範囲でおききします。

 以上で壇上からの質問は終わり、ご答弁の後、対面式質問席より再質問、意見要望を述べたいと思います。